研究概要 |
量子力学的共鳴状態は、有限の寿命で崩壊する一時的な準束縛状態である。複素座標法を用いた電子系共鳴状態の計算では、束縛状態と共鳴状態用に実数基底関数が、また連続状態用に複素数基底が必要である。数値計算を軽減し精度を高くし、特にドブロイ波長の問題依存性を反映させるために、複素数エネルギー固有値や振動数依存分極率に対する変分法を用いて、複素数軌道指数を最適化する計算方法を開発している。 昨年度、振動数依存分極率(以下では単に分極率とよぶ)を複素軌道指数に関して最適化する計算手法で1次摂動波動関数を求め、その虚数部分が正則クーロン解をかなり良く近似することを明らかにした。今年度は特に、連続波動関数の漸近領域における位相のズレを求め、さらにそれを用いて、光電子の空間分布を表現する異方性パラメータβの計算可能性を調べた。 1.水素原子の光イオン化において、複素軌道指数を持ったSlater型基底関数を5個使用し、分極率αが満たす変分原理に基づき、各光子エネルギー(ω)毎にその軌道指数{ζ_1}に関するαの解析的1次微分と2次微分を使ってNewton-Raphson法で{ζ_1}を最適化したところ、1s,2p,3d電子のイオン化断面積を非常に高精度に得ることができた。ざらに最適化した1次摂動波動関数は、原子核領域からr=20bohr付近まで正則クーロン解を高精度に表現した。 2.r=10~20bohrの領域でWKB解にマッチングすることで、漸近領域まで連続関数を補外し、位相のズレを簡単にかつ高精度に計算することが出来た。この結果、2pからの光電子の異方性パラメータβを有効数字3ケタの精度で得ることに成功した。3dからのイオン化においてもほぼ同様の精度を得た。 3.基底関数を複素数のGauss型にしたところ計算精度がかなり悪くなった。この場合の最適化手法、および、Slater型で最適化した複素数軌道指数のω依存性などは現在検討中である。
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