研究概要 |
昨年度までに純度の高いクラゲ由来ムチン(クニウムチン:Q-mucin)を作ることができたので、これらを用いて様々な実験を行い、ムチンの溶液中のモルフォロジーを制御する試みを行った。特に陽イオン(ミネラルイオン)との相互作用を重点的に解析した。 Q-mucinとカルシウムイオンの反応系を真空紫外領域の円二色性分散測定により測定し、180-220nm付近のスペクトル変化から、結合定数が10^5から10^6M^<-1>程度であることが判明した。さらに平衡透析法を用いて、溶液側に残ったカルシウムを蛍光センサー分子で定量し結合定数が3.7×10^6M^<-1>となることがわかった。Q-mucinの側鎖のリン酸基あるいはホスホン酸基がカルシウムイオンと相互作用し、天然かつ生分解性を持つ陽イオン交換ポリマーとして働くことを示した結果であり、これが粘液の中でも重要な物理化学的作用であることが明らかになった。 一方、Q-mucinと金属イオンを相互作用させ、マイカ基板上でAFM測定を行った。マイカ基板上を金属イオンによってコーティングし、そのあとにムチンを吸着させる。このとき、金属イオンの種類によってどのようにムチンのモルフォロジーとマイカ表面への吸着能が変化するかを観察した。金属イオンとしてはMg^<2+>,Ni^<2+>,Cd^<2+>を用いた。このうちNi^<2+>では最もひも状の構造を取るムチンが観測され、吸着状態も良好であることがわかった。これらの相互作用は粘液内でのムチンの物理化学的作用に大いに関係がある。たとえば、カタツムリの粘液が疎水表面に膜を作る基礎過程であると位置づけられる。 また、サンゴが出す粘液によって珊瑚礁が作られる基礎反応をQ-mucinで再現する実験を行った。Q-mucinをカルシウムと反応させた固体をシャーレに取った蒸留水中に分散させ、外部から炭酸ガスを、アンモニアガスとともに約一週間供給し、その経過をX線結晶回折で追跡した。反応の途中では(NH_4)HCO_3が生成したが、最終的にはカルサイトの信号が得られ、これによって生成量を定量することができた。
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