高周期14族元素からなる不飽和化合物の化学は、現代の有機金属化学の基盤を築く研究として発展してきた。炭素π電子系の高周期元素類縁体となる環状ポリエン化合物も知られるようになり、その基本的性質も明らかになりつつある。そこで高周期元素からなる環状π配位子もつ有機金属錯体を合成し、その構造や性質の解明を研究目的とした。 これまで骨格環内の一つの原子を高周期元素に置き換えた化合物は比較的多く研究されてきたが、環内骨格原子全てあるいは複数個の高周期元素を持つものは現在までに我々の研究を除きほとんど報告例がない。本研究では、ケイ素、ゲルマニウム、スズ等の高周期14族元素からなるシクロブタジエンジアニオンやシクロペンタジエニドを系統的に合成し、その構造や電子状態を精密に比較検討した。平成21年度の研究成果では、新たにテトラゲルマシクロブタジエンジアニオンの合成と構造解析に成功した。これは現在知られている6π電子シクロブタジエンジアニオン同族体の中では最も「重い」高周期元素からなる化合物である。X線構造解析により分子構造を明らかにし、すでに合成に成功している同族の炭素類縁体およびケイ素類縁体との比較を行った。その結果、炭素シクロブタジエンジアニオンとは異なり、非芳香族性を示すことが分かった。また、芳香族性の有無に関して分子軌道法を用いた理論計算により検証し、ケイ素シクロブタジエンジアニオンと類似した性質を有することを明らかにした。高周期元素シクロブタジエンジアニオンは高周期元素π電子系化合物の新たな機能性を開拓するとともに、金属錯体への環状π配位子としての応用も期待される。
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