高周期14族元素からなる不飽和化合物の化学は、現代有機金属化学の基盤研究として発展してきた。炭素π電子系の高周期元素類縁体も知られるようになり、その基本的性質も明らかになりつつある。そこで高周期元素からなる環状π配位子もつ有機金属錯体を合成し、その構造や性質の解明を研究目的とした。本研究では、ケイ素、ゲルマニウム、スズ等の高周期14族元素からなるシクロブタジエンジアニオンやシクロペンタジエニドを系統的に合成し、その構造や電子状態を精密に比較検討した。平成22年度の研究成果では、新たにテトラゲルマシクロブタジエンジアニオンを利用した遷移金属錯体の合成と構造解析に成功した。これは現在知られている6π電子シクロブタジエン配位子の中では最も「重い」高周期元素からなる化合物である。X線構造解析により分子構造を明らかにし、すでに合成に成功している同族の炭素類縁体およびケイ素類縁体との比較を行った。その結果、フロンティア軌道の性質を反映して高周期元素になるほどHOMOが上昇し、LUMOが下がることが実験的に明らかとなった。また、芳香族性の有無に関して分子軌道法を用いた理論計算により検証し、ケイ素シクロブタジエンジアニオンと類似した性質を有することを明らかにした。高周期元素シクロブタジエンジアニオンは高周期元素π電子系化合物の新たな機能性を開拓するとともに、新たな環状π配位子としての応用も期待される。
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