新材料の有機合成や体内での代謝反応や機能発現機構には、カルボカチオン、カルベン、カルボアニオン、エン反応、金属触媒が関与する反応に分類される。最近、反応活性の非常に高いスーパー求電子化合物が著しく注目されている。スーパー求電子化合物は、これまで合成不可能であった有機化合物を与えると考えられている。しかし、このようなスーパー求電子化合物の発生方法は、確立されておらず系統的な物理有機化学的研究もほとんど行われていない。そこで、超強酸を使って多環式芳香族スーパー求電子化合物の効率的な発生方法を開発し、直接NMR観測による電子構造の解明と有機合成反応への応用を検討する。さらに、反応選択性と反応活性について構造との関係を調べる。 本年度は、電子供与性の高い酸素を含有するベンゾジフラン誘導体やピラン誘導体を合成し、超強酸を用いて、多環式芳香族カルボカチオンを発生させた。そして、直接NMR観測と理論計算によって電子構造を明らかにした。ベンゼン環の数が少ないほど陽電荷分布に対する酸素原子の影響が大きく現れた。DFT計算法により、酸素原子への陽電荷の非局在化を見積もる方法を開発したところ、酸素原子への陽電荷分布は大きいカチオンと小さいカチオンに分類できた。また、フラン環の芳香族性が高くほどカルボカチオンになりやすいことが示唆された。さらに、超強酸を含有するイオン液体中でプロトン化カルボカチオンを経由して高収率で分子内環化生成物を合成する方法を開発した。
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