研究概要 |
三重項カルベンを磁性源として利用した有機磁性体の開発を目指し、平成23年度はセルフカップリングによりポリマー化が可能なカルベンの前駆体として、立体保護基としてオルト位に4つのメチル基を有し、連結用置換基として4位にエチニル基を、3',5'位にヨード基を有するジフェニルジアゾメタンを合成した。このジアゾ化合物を有機マトリックス中77Kで光分解し、ESRとUV-visスペクトルによって対応する三重項カルベンの発生を観測した。昇温実験により、このカルベンは100Kまで安定であり、また、室温ベンゼン中でのレーザー閃光光分解により、半減期1.0秒の長寿命三重項カルベンであることが示され、有機磁性源として有効であることがわかった。次に、35℃において薗頭カップリング条件下でこのジアゾ化合物を反応させ、2-8個のジフェニルジアゾメタンユニットを有するオリゴジアゾ化合物を合成した。そして、ジアゾユニットを6個有するオリゴジアゾ化合物を温有機マトリックス中77Kで光分解し、EsRとUV-visスペクトルによりオリゴカルベンの発生を観測した。このオリゴカルベンも100Kまで安定であり、ポリマー化してもカルベンの安定性はモノカルベンと変わらなかった。また、カルベン間での磁気的相互作用を調べるために、極低温下でオリゴジアゾ化合物を光分解し磁化率測定を行ったところ、5Kでのスピン量子数は1であり、カルベンは発生しているものの、カルベン間での強磁性相互作用は観測されなかった。高いスピン量子数が観測されなかったのは、カルベン前駆体ジアゾ化合物間での薗頭カップリングは起こっているものの、オリゴジアゾ化合物の形成時に未反応のエチニル基同士が酸化的カップリングし、反強磁性相互作用になる結合が一か所存在しているためではないかと考えられる。
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