研究概要 |
3つのジピリルピリジン鎖からなるクリプタンド型ポルフィリノイド(1)に対するカルボン酸の配位挙動について、詳細な知見を得ることを目的として、ジピリルピリジン鎖とジピリルベンゼンが1:2および2:1の混合型クリプタンドの合成を達成した。前者(2)は1個のトリフルオロ酢酸(TFA)を捕捉し、アセトニトリル:ジクロルメタン9:1混合溶媒中で456nmに1:1錯体由来の吸収帯を示した。このUV-vis滴定から会合定数はlogK=4.97±0.04と算出した。同じ混合溶媒系での(1)とTFAのバインディング実験では段階的なスペクトル変化がみられ、460nm,440nmに中間体の吸収極大が観測され、最終的に338nm,311nmに吸収帯を有する1:3錯体が生成した。今後、2:1混合型クリプタンド(3)の配位挙動についても実験を行い、ジクロルメタン中での(1)のアロステリックな配位挙動の全貌を明らかにする予定である。一方、(1)はジクロルメタン中で(R)-(-)-マンデル酸の添加により、480nmに正のCDシグナルを示すが、このCD強度はマンデル酸の光学純度とは直線関係になく、そのプロットは上方(CD強度の高い方向)にふくらんだ曲線となることを見いだした。即ち、不斉増幅現象が起きていることになる。ジクロルメタン中で(1)にL-(+)-0,0'-ジベンゾイル酒石酸を添加すると480nmに強い負のCDシグナルが現れたが、マンデル酸で見られたような不斉増幅現象は認められなかった。0,0'-ジベンゾイル酒石酸ラセミ混合物と(1)との錯体NMRスペクトルでは3種類のジアステレオマーが観測されたが、マンデル酸のラセミ混合物と(1)との錯体のNMRは(R)-(-)-マンデル酸と(1)との錯体のNMRと全く同一で1種類の錯体のみが観測された。多重配位と不斉増幅現象の関係について、溶媒効果や配位能の異なるクリプタンドを用いた研究についても行う予定である。
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