ジピリルピリジン鎖を3つ含むクリプタンド分子は人工レセプターとしての展開が期待される。既に、アルコールとカルボン酸が3つ配位した錯体のX線結晶構造を明らかにしている。このクリプタンドはカルボン酸に対してアロステリックな配位挙動を示すことを既に明らかにしているが、配位力が弱いアルコールの配位挙動は水との競争が障害となることもあり明らかではなかった。アルコールとクリプタンドの等モル混合物の温度可変NMRを測定し、低温ではリガンドフリーのクリプタンドとリガンド3つのクリプタンドが2;1の比で存在することを見いだした。この結果からアルコールの配位に際してもアロステリック効果が働いていることを明らかにした。一方、このクリプタンド分子による塩化物イオンの捕捉実験も行い、人工レセプターとしての機能開発を行った。従来からよく知られているカリックス[4]ピロールと同程度のアニオンバインディング能を持つ事を競争実験から明らかにした。更に、ジピリルピリジン鎖の構造改変を行うことにより、会合定数が100倍以上増加することを明らかにした。クリプタンド以外の大環状ポルフィリノイドのリガンドの多重配位挙動についても検討を行った。シクロテトラピリジンテトラピロールの複核コバルト錯体を合成し、不斉誘導の観点から金属に対する外部配位子の可逆的配位子交換反応について明らかにした。更に、シクロテトラベンゼンオクタピロールに対するカルボン酸の4重配位に際して、顕著なアロステリック効果が見られる事を明らかにした。今後は過酷な条件での配位挙動の研究が可能になる頑強なクリプタンド分子の開発を行い、クリプタンド型ポルフィリノイドの更なる機能開拓を行う予定である。
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