NMRを用いる蛋白質やオリゴペプチドの構造解析において立体選択的安定同位体標識アミノ酸の利用は、極めて有効な手段である。しかしながら、重水素、^<13>C、^<15>Nなどを位置・立体選択的に導入したアミノ酸は一般に入手困難であり合成も多段階におよぶことから、その利用は大きく制限されている。そこで本研究では、多くの研究者が利用可能な簡便かつ汎用性の高い標識アミノ酸合成手法を提供することを第一の目的とした。 平成21年度は様々な立体選択的重水素標識アミノ酸の合成中間体として有用な不飽和ピログルタミノール誘導体の新規合成法を開発した。初めに保護D-セリン誘導体とメルドラム酸をDCCの存在下で縮合してテトラミン酸誘導体を合成した。得られたテトラミン酸のカルボニル基を還元してヒドロキシピログルタミノールとしたのち、水酸基をヨウ素化したところ、自発的に脱離反応が進行して不飽和ピログルタミノール誘導体が高収率で得られた。基質一般性を確認するべく様々な保護基を持つD-セリンを出発物質として同様の検討を行ったところ、新規化合物を含む何種類かの不飽和ピログルタミノール誘導体を効率良く得ることに成功した。本手法はテトラミン酸を経由することからカルボニル基を還元する際、適当な重水素化試薬を用いることにより任意の位置に重水素を導入することが可能である。また、特殊な試薬や反応条件を用いないことから各反応のスケールアップが容易であり、各種重水素標識アミノ酸の大量合成も可能である。
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