遷移金属触媒を用いて炭素-ヘテロ元素結合を切断し、これらをアルキンなどの不飽和炭化水素に付加させる反応は、ヘテロ官能基の導入と炭素鎖の伸張を同時に達成することができることから合成化学的に優れた手法の一つである。ヘテロ元素として第16族の硫黄やセレンを用いた高効率の付加反応も可能である。しかしながらテルルに関しては報告例はほとんどない。これはテルル原子化合物の酸化的付加能が極めて高く、生成物あるいは反応中間体からの副反応の制御が困難であることが一つの要因と考えられる。本研究では、Pd(PPh_3)_4触媒量存在下、窒素上にアルキニル基を有するテルロカーバメートをトルエン中で加熱還流すると、カルバモイル炭素-テルル結合の分子内アルキン部位への付加を経て、対応するα-アルキリデンラクタムが高収率、高選択的に得られることを見出した。本反応の反応性は生成する環の大きさに大きく依存しており、四員環から六員環に環サイズが大きくなるにつれて収率は向上する。また、内部アルキンを用いた場合でも反応は進行するが、収率はやや低下した。得られた6員環生成物のX線結晶構造解析の結果より、テルルとカルボニル酸素との距離は2.70Åであることがわかり、酸素とテルルのvan deer Waals半径の和(3.52Å)よりかなり短いことが確認された。さらにエネルギー計算の結果より、本反応で得られるZ体生成物はE体のものと比べ約5kcal/mol安定であることがわかった。これらの結果は、生成物がカルボニル酸素とテルルとの相互作用により強く安定化されていることを示唆している。
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