研究概要 |
これまでに申請者は,遷移金属錯体が触媒するホウ素化合物の脱水素カップリング反応の機構に対して,理論計算を用いてアプローチしてきた。平成22年度は,反応機構について実験的にアプローチするために,第2級アミン-ボランおよびその脱水素生成物であるアミノボランを配位子として含むシグマ錯体の合成・単離を試みた。その結果,電子豊富なルテニウム錯体を用いて,その配位圏内にアミンボランおよびアミノボランを含む錯体を単離することに成功した。アミンボランを含む錯体については,置換基の異なる2種類の化合物についてX線構造解析を行ない,その詳細な構造を明らかにするとともに,これらの錯体が溶液中で興味深い動的挙動を示すことを見出した。また単離したアミンボラン錯体が加熱下に水素を放出してアミノボラン錯体へと変化することを確認し,これらの化合物が金属上でのボラン脱水素カップリング反応において,中間体として機能していることを明らかにすることができた。さらにDFT計算によって,アミノボラン錯体中では電子豊富な中心金属から三配位ホウ素原子へ強い逆供与が起こって錯体を安定化していることを明らかにした。このことは,用いる錯体の電子的な性質が,ボラン脱水素反応の触媒的な活性および中間体の安定性に大きな影響を与えることを示唆しており,ボランの脱水素カップリング反応においてさらに効率の良い触媒系の設計に対して指針を与える。このような知見に基づいて,現在,電子不足な中心金属を持つ錯体,特に陽イオン性金属錯体を触媒として用いて,ボラン脱水素カップリング反応の効率を高めることを試みている。
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