研究概要 |
バナジウム錯体,[V(IV)OCl_2(bpy)]および[V(III)Cl_3(CH_3CN)(bpy)]がジクロロメタン中で起こす新規な振動反応の機構を解明するために,一連の実験を行い,下記の知見を得た。 1.温度変化が振動反応のトリガーとなること。 反応溶液を温度コントロール可能な恒温水槽中で撹拌し,温度パルスを与えた。その結果,平均温度25℃では,温度振幅を±4℃,温度変化周期を5時間としたとき,温度変化に連動した色変化が観測された。しかし,温度振幅を±1℃まで小さくすると,温度変化に対する応答が悪くなり,振動は非周期的になった。一方,一定温度(25℃)でも振動がみられたが,まったく非周期的であった。さらに平均温度を低下させると,連動性が悪くなった。これらのことから,これまで非周期的であると考えられてきたバナジウム錯体誘起振動反応は,温度パルスによってかなり制御できることがわかった。また,温度パルスが振動反応に大きな影響を与えていることから,気体状,あるいは揮発性の物質が振動反応機構に関与していることが明らかになった。 2.ラジカル種の関与について ジクロロメタンは,遷移金属触媒によって分解を起こし,最終的にはHClとCOを生じることが報告されている。本振動反応系においても,HClとCOの発生が確認され,同様の分解反応が起きていることが分かった。従って,この分解反応途中で生成されるラジカル種が振動反応に寄与していると考えられる。つまり,酸化剤として作用しているのはラジカル種と溶存酸素から生じる過酸化物であり,誘導期間はこの過酸化物が蓄積されるまでの期間であると推定される。さらに,ジクロロメタンに含まれているメタノールが振動反応を阻害することから,メタノールがラジカル消去剤として作用していることも明らかになった。
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