研究概要 |
バナジウム錯体,[V(IV)OCl_2(bpy)]および[V(III)Cl_3(CH_3CN)(bpy)]をジクロロメタンに溶解することによって生じる新規な振動反応の機構を解明するために,一連の実験を行い,下記の知見を得た。 1,有機基質の添加による溶存ラジカル種の特定 本振動反応は,ジクロロメタンの分解によって生じるラジカル種が関与している事が明らかである。しかし,一般に不安定なラジカル種を直接検出することは困難である。そこで,ラジカル種によって比較的容易に修飾され,かつ修飾された化合物の同定が容易に行なえるインドール誘導体を振動反応系に添加し,生成した化合物を同定することにより,溶液内に存在するラジカル種の同定を間接的に行う計画を立てた。振動反応溶液にインドールを添加したところ,振動反応が著しく阻害され,誘導期間は約1ヶ月にわたった。誘導期間後は,通常の振動反応が観測された。このことは,振動反応に必要な化学種がインドールと反応して消費され,その結果,振動反応が阻害されたと考えられる。また,インドールがほぼ消費された後,振動反応に必要な化学種の蓄積が始まり,振動反応が開始されたと説明できる。振動反応開始から1週間後に,生成物を単離した。この生成物の^1H NMR,^<13>C NMR,カラムクロマトグラフィー,FAB-MS等により,主生成物は3,3-ジクロロオキシインドールであり,少量のイサチンも生成していることが分かった。これらの化合物が生成される過程を検討し,振動反応溶液内にはペルオキシラジカル,Cl_2HCOOHが存在している事が明らかになった。この結果,ペルオキソラジカル種が振動反応におけるバナジウムの酸化還元に関与していることが分かった。
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