研究概要 |
バナジウム錯体,[V(IV)OCl_2(bpy)]および[V(III)Cl_3(CH_3CN)(bpy)](bpy:2,2^1-bipyridine)をジクロロメタンに溶解することによって生じる新規な振動反応の機構を解明するために,一連の実験を行い,下記の成果を得た。 1.振動反応のシミュレーション 前年度までの研究によって,本振動反応におけるバナジウムの酸化に関与する化学種は,溶存酸素分子によって生成されたペルオキソ種,CHCl_2COO・とCHCl_2COOHであることが分かった。また,還元反応には,光照射とCHCl_2・が寄与していると推定された。そこで,これらの知見を基に,振動反応のシミュレーションを行なった。Co(II)によって触媒されるベンズアルデヒドの空気酸化(コバルトレーター:A.J.Colussi, et al.,J.Am. Chem. Soc. 1990, 112;8660)を参考にして,骨格モデルを構築した。このモデルは,(1)酸素分子の気相から溶液相への移動平衡反応,(2)溶存酸素によるV(IV)の酸化反応,(3)ジクロロメタンによるバナジウムの還元反応,(4)CHCl_2・によるV(V)の自己触媒的還元反応,の4つの基本プロセスからなっている。実験条件および既知の値を参考にして,これらの反応の速度式に現われる化学腫の濃度と速度定数を与えて,各化学種の濃度の時間変化に関する計算を行なった。ここで,速度定数のいくつかは,継続的に振動が発生するように,パラメーターとして取り扱った。その結果,一定の誘導期間後に,[O_2(soln)],[CHCl_2・],[V(V)]が振動する様子が再現された。しかしなお,実際の系では振動は非周期的であることが再現されておらず,また,各化学種の濃度変化の絶対値も再現されていない。今後は,このモデル系にさらに改良を加えて,実際の振動挙動の再現を目指す必要がある。
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