研究概要 |
現在臨床で使用されているシスプラチン型白金抗がん剤の欠点であるシスプラチン耐性と腎毒性問題をクリアするため,電荷を有するカチオン,アニオン両白金・パラジウム錯体を合成し,インビトロ生理活性を検討したところ,一連の錯体に良好な抗がん活性を見出せた.数々のがん細胞に対する活性パターンは,シスプラチンやその他の抗がん剤とは大きく異なっており,シスプラチンや従来の抗がん剤とは異なる抗がん機構で働くことが示唆された.検討の結果,一連の錯体はプロテアソーム活性阻害等を有していることを見出すに至った.このようなタンパク質を標的とした抗がん作用はシスプラチン等では見られないことから,本錯体がシスプラチンとは異なる作用機構で働いていることが明確に示され,シスプラチン耐性抗がん剤として有望なことが期待された.本錯体の生理活性の源である化学特性について検討を加えた.カチオン錯体に特徴的な芳香環スタッキングは,置換基・金属を変えるだけで大きく変化することがプロトンNMRから認められ,スクッキングが軌道間相互作用であることが支持された.同時に,錯体の物性であるオクタノール/水分配比も大きく変化し,スタッキング構造が錯体の物性を決定していることが明確となった.リン酸基含有アニオン白金錯体は,ラングミアプロットにより得た吸着平衡定数から骨の無機成分であるヒドロキシアパタイトに高い親和性を有していることが示され,本錯体の骨への選択的デリバリーの可能性が示唆された.カチオンアニオン両錯体とも水溶性は高く,腎毒性が小さなことが期待された.現在,マウスを使った腎毒性について検討を行っている.
|