研究概要 |
白金錯体の,(1)副作用を軽減させる化学特性,(2)抗がん作用を強化させる化学特性,について研究を行った.マウス実験の結果,BUN,クレアチニン濃度に反映されたシスプラチン腎毒性はカチオン,アニオンいずれのイオン化合物についても観察することができず,シスプラチンとは違った容易に加水分解されない性質,イオンによる高い水溶性が腎毒性の小ささに反映されていることが推定された.カチオン白金抗がん剤の白金配位芳香環を大きくして芳香環スタッキングを強めたところ,培養がん細胞増殖抑制効果,プロテアソーム活性阻害作用ともに向上が見られ,抗がん活性とプロテアソーム活性阻害に直線関係が見られたことから,プロテアソーム活性阻害がカチオン白金抗がん剤の主な活性機構と判断された.シスプラチンにプロテアソーム活性は見られなかったことから核酸DNA配位以外の生理活性機構を有することがシスプラチン耐性がんに効く要因であることが明らかとなった.従って,当初予測されたシスプラチン結合DNA-HMGタンパク質がシスプラチン抗がん活性の源であることは,モデル錯体からは実証できず,新しい標的を見出した結果となった.白金と同様の配位構造を示すパラジウム錯体が白金錯体と同レベルの抗がん活性を示したことは,本研究の開発カチオン錯体の活性が配位子側の構造に依存しているとともに,白金にとってかわる新しい金属抗がん剤の開発が可能であることを示している.
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