研究概要 |
本研究では、金属-配位原子間に容易に多重結合を形成し、かつ中心金属の電子状態に呼応して供与する電子密度を柔軟に変化させ得るというイミド及びホスフィニデン配位子の特長と、複数の金属中心が隣接することで基質分子の多中心的な活性化が可能であり、かつ多電子の出入りを伴うプロセスが容易であるという金属クラスター反応場の特長とを融合させた新しい化学反応場を構築してその機能を解明することをめざして検討を行った結果、平成22年度においては2つの(η^5-C_5Me_5)_2Ruフラグメント間を反応性イミド配位子と有機配位子とが架橋した一連の2核錯体[(η^5-C_5Me_5)_2Ru_2(μ-NPh)(μ-L)](1;L=CO, CNBu^t, CH_2, C=CH_2, CR(R=H, CH_3))を選択的・効率的に合成できることを見出し、それらの構造と化学反応性を明らかにした。X線解析の結果、1はRu-N間、Ru-C(架橋配位子)間、およびRu-Ru間に多重結合性を有する異種多重結合集積型構造を有する分子であり、これらにより配位不飽和構造が安定化されていることが判明した。1は配位不飽和性を反映してCO, CNBu^t, PMe_3等の基質分子を容易に2核サイト上にとりこむばかりでなく、架橋イミド配位子、架橋有機配位子およびアルキンなどの基質分子との間での選択的な炭素-炭素および炭素-窒素結合形成反応が2核サイト上で穏和な条件下で進行し、新たな含窒素有機配位子を有する2核ルテニウム錯体が得られることも明らかになった。これらはRu-N間、Ru-C(架橋配位子)間のいずれもに多重結合性を有する分子構造に起因する特異な反応性であると理解できる。
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