研究概要 |
本研究では、金属-配位原子間に容易に多重結合を形成し、かつ中心金属の電子状態に呼応して供与する電子密度を柔軟に変化させ得るというイミド及びホスフィニデン配位子の特長と、複数の金属中心が隣接することで基質分子の多中心的な活性化が可能であり、かつ多電子の出入りを伴うプロセスが容易であるという金属クラスター反応場の特長とを融合させた新しい化学反応場を構築してその機能を解明することをめざして検討を行った結果、平成23年度においては、ヒドリド配位子を有する新規な2核ルテニウムイミド錯体Cp*Ru(μ_2-NAr)-(μ_2-H)_2RuCp*(2a,Ar=Ph;2b,Ar=C_6H_4OMe-4;2c,Ar=C_6H_3Me_2-2,6;Cp*=η^5-C_5Me_5)を合成し、これらの錯体がN-H結合の還元的脱離により、アミド・ヒドリド錯体という新たな2核配位不飽和種を与えることも明らかにした。2a、2bはトルエン中で容易にN-H結合の還元的脱離を起こし、アミド・ヒドリド錯体Cp*Ru(μ_2-NHAr)(μ_2-H)(μ_2-C_6H_5Me)RuCp*(3a,Ar=Ph;3b,Ar=C_6H_4OMe-4)を与えた。本反応は配位不飽和中間体Cp*Ru(μ_2-NAr)(μ_2-H)_2-RuCp*(A)を経由して進行することが速度論的実験により示唆された。3aは容易にトルエンを解離して、Aの2量体である4核錯体を可逆的に与える。さらに、Aの2核サイトにCO、アルケン、アルキンなどの不飽和分子を取り込んだ一連の錯体を単離・同定した。一方3aとPh_3SnHとの反応では、Sn-H結合およびSn-C結合の切断反応が進行し、スタニレン配位子を有する新規なイミド錯体が得られることも明らかにした。
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