研究概要 |
カリックスアレーンは芳香環に囲まれたキャビティを持つユニークな分子であるが、カリックスアレーンを配位子とする遷移金属錯体において、その配位構造とキャビティ形状の動的制御に成功した例はほとんどない。昨年度の研究で、ジオキソレニウム錯体cis-(Ph_4P)[ReO_2{R-calix[4]-(O)_4}](1,R=^Bu,H)とヒドロキシルアミンの反応で直線型ニトロシル配位子を持つヒドロキソ錯体(PPh_4)cis-[Re(OH)(NO){R-calix[4]-(O)_4}](2)が生成することを示したが、本年度に錯体2の性質を詳しく検討したところ、R=Hではcis体からtrans体への異性化が進行しないのに対し、R=^tBuの場合には、塩化メチレン溶液中では室温48hでtraps体への異性化がほぼ完全に進行することを見出した。この異性化反応の速度論解析では、反応は偽一次反応として解析できた。さらに、この異性化反応は酸(酢酸)または塩基(トリエチルアミン)の添加で遅くなり、水の添加によりほとんど進行しなくなることが判明した。既に平成21年度の検討で、1(R=H)とフェニルヒドラジン類の反応で生成するcis-(オキソ)(ヒドラジド)錯体が、trans-(ヒドロキソ)(ジアゼニド)錯体へ異性化する場合には塩基が反応を大きく加速することが判明しており、対照的である。このことは、これらの反応機構がプロトンの授受に関して異なった律速段階を持つことを意味しており、興味深い。一方、1から誘導されるニトリド錯体(PPh_4)[Re(N){R-calix[4]-(O)_4)}](3)を用いてCu(I)あるいはAg(I)との錯形成を検討したところ、3の酸化により新規反磁性錯体が生成した。条件により4回軸を持つものおよびCs対称をもつものが生成するが完全な同定はなお検討中である。
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