1、海水中のケイ酸(シリカ)の溶存状態を閉塞性海域である東京湾と黒潮の影響の高い外洋の相模湾など他の地域について比較し、季節変化、深度分布などを明らかにした。相模湾では、黒潮の影響を受け、冷夏においては春季の時点においてすでに夏季の珪藻の活性が抑制されることがわかった。この冷夏は秋季にはすでに、通常の夏の年とおなじような分布を示した。冬季には海洋環境は復元しており、また春の「ブルーミング」に対して、ケイ素の供給をしていることがわかった。 さらに日本海側の福井の能登半島西側の海水を海水表面にそって採水した。一年を通して、ケイ酸の濃度は東京湾に比べて非常に低く、しかも2月の冬季にシリカの濃度が比較的高くなっていた。このことから、冬から春にかけて供給される「黄砂」がシリカを海水表面に供給しているのではないか、と考えている。 2、淡水においては、FAB-MSのイオン化効率が非常に下がり、シリカの溶存状態に関する譲歩が得にくい。そこで、ESI-MSによるシリカの溶存状態を明らかにするために、淡水にシリカを人為的に溶解させる試料を得ることが必要であった。報告者は米用の農業肥料を超純水に溶解させることによって得た。この純水中に含まれるシリカの状態分析を行うと、シリカの飽和濃度は河川や地下水のシリカの飽和濃度と推定される濃度2.3mmol/Lと一致した。このシリカを含む溶液はFAB-MSによって分子の構造の情報が得られたが、ESI-MSでは、脱溶媒反応によってシリカ分子の縮合が生じていた。これらのことから、シリカの濃度測定に用いるモリブデン黄法、さらに高感度でシリカ、リン酸の濃度を測定できる、モリブデン青法の発色過程を明らかにすることもでき、様々な反応を分子レベルで解明できる可能性が示唆された。
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