研究概要 |
微量金属イオンは酸化状態や化学形によって環境中での移行,生物による取り込み及びその毒性が大きく異なることが知られており,化学種分析(スペシエーション)が必要である。しかし,不安定な化学種の定量は一般の検量線法では容易ではない。安定同位体を用いる新しい不足当量分析法では,同位体希釈の原理に基づき目的化学種の定量的な回収も検量線も不要であり,スペシエーションに適した絶対定量法と考えられる。本年度は,銅(I)の不足当量分離法の検討,並びにアンチモン(III,V)の化学種分析法を環境エアロゾル試料に適用するために,共存イオンや塩の影響について詳細に検討した。また,バナジウム(III,IV,V)溶液の電気化学的調製法の検討に着手した。 1)大気雰囲気下で安定な銅(I)-グルタチオン(GSH)水溶液を用いて,銅(I)イオンの不足当量分離法を詳細に検討し,最適条件を明らかにした。5x10^<-5>M以上の銅(I)に対し,大過剰の過塩素酸イオンと不足当量の2,9-ジメチル-1,10-フェナントロリン(dmp),あるいは過剰のdmpと不足当量の過塩素酸イオンのいずれの系によっても,pH4付近で常に一定量の銅(I)をクロロホルムに不足当量抽出でき,また,銅(II)イオンからの分離も可能なことを示した。 2)アンチモンIII価とV価の選択的分離系として,それぞれベンゾイルフェニルヒドロキシルアミン(BPHA)系とピロガロールートリオクチルアミン(PG-TOA)系を用い,環境試料中に共存する17種類の金属及び非金属イオンの影響を調べた。BPHAでは鉄(III),銅(II),クロム(III)などによる顕著な妨害が認められ,これらのイオンからアンチモン(III)の前分離が必要なことが分かった。一方,PG-TOAでは,妨害となるイオンは全くなく,アンチモン(V)に高選択的な分離系であることが確かめられた。
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