研究概要 |
微量金属イオンは酸化状態や化学形によって環境中での移行や生物に対する毒性が異なることが知られており,元素の汚染の程度や毒性の評価のためには,化学種別の定量(スペシエーション)が必要である。一般に,検量線法では不安定な化学種の定量は容易ではないが,同位体希釈の原理に基づく同位体希釈質量分析や安定同位体を用いる不足当量分析法は,目的化学種の定量的な回収も検量線も不要であり,スペシエーションに適した絶対定量法と考えられる。本年度は,ホウ酸の選択的不足当量分析法,およびアンチモン(III,V)の化学種選択的同位体希釈分析法を中心に研究した。 1)ホウ酸に選択的な抽出試薬として,数種のサリチルアルコール誘導体を合成した。ジヨードサリチルアルコールが最も抽出能が高く,これをホウ酸に対して過剰量とし,不足当量のトリオクチルメチルアンモニウムにより不足当量抽出した。B-10を用いた同位体希釈法と組み合わせることにより,nmolレベルのホウ酸の絶対定量が可能となり,肥料標準物質に適用し,本法の精確さを実証した。 2)アンチモン(III)の選択的分離系として,ジエチルジチオカルバミン酸塩を用いる速度論的抽出法を確立し,前年度に確立したアンチモン(V)分離系であるピロガロールートリオクチルアミン系と組み合わせて,環境試料中のアンチモン(III,V)の選択的同位体希釈分析法を開発した。NIST1648aなどの大気環境標準物質に適用し,酸浸出されるアンチモンのスペシエーションに成功した。 3)不安定な化学種であるバナジウム(III,IV,V)水溶液の簡易・迅速な組成制御法として,マイクロカラム電極による電解法を検討した。充填炭素繊維の陽極酸化処理と錯形成剤タイロンの共存により,バナジウム(III)を含む化学種の定量的な酸化還元が可能になった。
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