研究概要 |
液液(油水)界面における温度変調ボルタンメトリー(TMV)を装置面から改良した。具体的には,以下の改良を行った。1)直径30μmの複数の穴をもつポリエステル膜による微小界面を採用し,良好なS/N比の直流及びTMボルタモグラムの測定を可能にした。2)油相の支持電解質としてクリスタルバイオレット塩を用いて油相を青く着色し,油相がHe-Neレーザー光(波長633nm)を吸収できるようにした。これにより,従来,熱源として使用していた紫外線レーザー光によるポリエステル膜の劣化がなくなり,長時間にわたる実験が可能となった。3)He-Neレーザーの代わりに安価で比較的高出力(30mW)の半導体レーザー(波長532nm)を用い,これを電気的に制御するTMVを開発した。これにより,He-Neレーザー光を断続するための機械的断続器を使用する必要がなくなるとともに装置全体を小型化することができた。 1),2),3)の改良により,液液界面のTMVは汎用的測定法として完成したと考えられる。一方,完成したTMVにより,各種イオンの直流及びTMボルタモグラムを測定し,イオン移動の標準自由エネルギー,標準エントロピー及び標準エンタルピーを決定した。具体的には,以下の検討を行った。4)第4級アンモニウムイオンと各種陰イオンを測定対象として,これらの標準自由エネルギー,標準エントロピー及び標準エンタルピーを決定した。得た熱力学的変数を基に,油相及び水相でのイオンの溶媒和や水の構造を考察した。5)各種ジピリジニウムとピリジニウムイオンの標準自由エネルギー,標準エントロピー及び標準エンタルピーを決定し,これらのイオンの置換基効果を考察した。4),5)は分析化学や溶液化学の基礎となるイオンと溶媒の相互作用を知ることになり,意義あるものと考えられる。
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