研究概要 |
前年度に改良し、測定法として完成した液液(油水)界面イオン移動温度変調ボルタンメトリー(TWV)を用いて、各種の1-アルキルピリジニウムイオンの油相から水相への標準イオン移動自由エネルギー,標準イオン移動エントロピー及び標準イオン移動エンタルピーの決定を行い、これらの熱力学的物理量に対するアルキル鎖の長の依存性を議論した。メチル基からブチル基にアルキル鎖が長くなるにつれて標準イオン移動自由エネルギーは負から正へと増加した。これはアルキル鎖が長くなるにつれて、1-アルキルピリジニウムイオンの疎水性が大きくなることによる。一方、標準イオン移動エントロピーはアルキル鎖が長くなるにつれて減少した。油相から水相への標準イオン移動エントロピーを、(標準水和エントロピー)-(標準溶媒和エントロピー)と考え、標準溶媒和エントロピーが調べた全ての1-アルキルピリジニウムイオンで同じと仮定すると、これは、アルキル鎖が長くなるにつれ、水の構造形成が促進される結果となった。これは、小さなイオンは水の構造破壊を促進するが、大きいイオンは水の構造形成が促進するというFrank-Wenの考え方と一致する結果である。また、標準イオン移動エントロピーを標準イオン移動自由エネルギーに対してプロットしたところ、よい直線関係が得られた。この直線関係はアルキル鎖の異なる一連の第4級アンモニウムイオンにおいても見出され、今後、標準イオン移動エントロピーの分子論的意味付けを行うに当たり有意義な関係であると思われる。これらの成果は学会で発表し、一部、論文を投稿中である。生体関連イオンに対しては、その疎水性を確かめた段階であるが、今後、これらのイオンに関しても標準イオン移動エントロピーの決定を行う予定である。
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