動電加給前濃(EKS)による前濃縮を用いるキャピラリーゾーン電気泳動法(EKS-CZE)により、申請者らは、希土類元素で0.04nM(エルビウムで6.7ppt)という極めて低い検出限界濃度(LOD)を達成した。高感度化の基本的戦略は、(1)等速電気泳動濃縮が起こる泳動バッファーを使用すること、(2)電気泳動比較的大量の試料を使用すること、(3)その試料全体に電場を印加することの3点で、結果、希薄試料中痕跡濃度成分の導入効率を向上させ、検出可能とする。これまで使用した装置(大塚電子、CAPI-3300)は、キャピラリーと電極が分離したタイプであり、電極をリング状に改造する事が容易であり、かつ試料体積も最大17mLまで使用する事ができた。しかしながら、CAPI-3300は我が国でしか使用されていない装置であり、本分析法を普及させるには、海外で広く使用されている装置の使用が不可欠である。そこで本年度は、Agilent製HP-3D電気泳動装置を使用して、EKS-CZEを試みると共に、本装置の問題点などについて詳細に検討した。 HP-3Dではキャピラリーと電極が一体であるため(同軸構造)、オリジナルの構造を生かしてEKSを行うためには、電極を短くする必要があった。この改良により、試料体積を最大230μLまで増加できたが、同軸構造のままでは試料に印可される電場範囲が十分でなかったのでリング電極に改めた結果、高感度分析が可能となった。また、本年度はDNAの分析に応用し感度を評価した。結果、オリジナル構造では72bpについてLODが125pptであったものが、リング電極により約10pptを達成した。 また、EKSのシミュレーションおよび実験により、高感度分析においては、特に電解液のcarry overの問題が深刻であることを明らかにし、試料導入前の電極等の洗浄プロセスが重要であることを明らかにした。
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