前年度までの研究で、DNA二重らせんを酸化還元活性な低分子(フェロセン、金属フェナントロリン錯体、キノンなど)と複合化すると、固有の電気伝導性が得られることが確認できたので、今年度は、くし形電極と組み合わせて特性を評価した。具体的には、くし型電極(電極ライン幅、間隔ともに2μm)の電極ギャップ間にDNAコンジュゲートからの自己組織化膜を形成させ、真空条件下で電流-電圧特性を調べた。その結果、観察される電流は数十pAと十分な大きさであるものの、土5V程度のしきい値電圧を示しセンシング応用に支障があった。これは、他の有機系ナノ材料にも共通した欠点であり、DNAコンジュゲートと電極との物理的な接合が十分でないためと考えられた。そこで、DNAコンジュゲートからのデンドリマー形成を利用して安定な接合を得る工夫を取り入れた。以下にその結果をまとめる。 まず3種類の28量体オリゴヌクレオチドを用いて、DNA分岐構造の一種であるThee-Way Junction (TWJ)を形成させた。TWJユニットの末端を自己相補的な1本DNAとすると、これが付着末端となって働き、デンドリマーを形成する。ここでは、付着末端を光架橋性のソラレン分子で修飾し、共有結合性のデンドリマーを形成するように工夫した。原子間力顕微鏡観察の結果、TWJユニットが溶液中で直径80nm程度の球状デンドリマーに成長することが確認できた。同様にして、付着末端の配列を変えた2番目のデンドリマーナノ粒子を合成した。溶液中で両デンドリマーを混合し、さらに、それらの付着末端と相補的な配列の1本鎖DNAを共存させると、これがバインダーとなってDNAナノ粒子が多数会合する挙動を見いだした。原子間力顕微鏡および蛍光顕微鏡を用いて詳細に調べた結果、ナノ粒子超構造は直径2μm程度にまで成長することがわかった。引き続き、ナノ粒子超構造体をくし型電極に導入して電圧-電流特性を調べるとともに、DNAの分子認識を利用したバイオセンシングについて検討している。
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