研究概要 |
窒素及びリン原子の塩基性,求核性の差異に基づいた異原子協働型多点制御不斉触媒の開発と,それらを触媒とするアルコールの不斉アシル化反応に関する研究を実施した.その結果,商業的に両鏡像体の入手が可能なcis-アミノインダノールのN,N-ジメチルアミノボスフィニト誘導体が,メソ形1,2-ジオールの不斉非対称化反応において高選択的にアシル化反応を触媒することを見出した.5mol%の本触媒存在下,4-tert-ブチルベンゾイルクロドを用いた反応において,最高95%eeの優れた選択性で不斉アシル化反応が進行することが明らかとなった.また本触媒は,これまであまり報告例がない1,3-ジオールの不斉非対称化反応においてもある程度有効であり,60%ee程度の選択性で不斉アシル化反応が進行することを見出した.本触媒の触媒作用に関する情報を得るため,基質となるアルコール非存在下,触媒とアシルクロリドの反応を検討した.その結果,ボスフィニト部位のリン原子団がアシル基により置換されたアミノエステルが単離された.得られたアミノエステルの立体化学は触媒の立体化学を保持しており,リン原子にアシルクロリドが付加して生成すると考えられるボスホランのリガンドカップリングにより得られたものと考察した.生成したアミノエステルには触媒活性は無く,当初の予想通りボスフィニト部位がルイス塩基としてアシルクロリドを活性化していることが強く示唆された.また,グリセリンの直接的不斉アシル化反応に関しても検討した.ベンゾイルクロリドを用いたトルエンを溶媒とする反応において13%の低収率ではあるが,54%eeの選択性でモノベンゾイル化体が得られることを見出した.
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