研究概要 |
当初目論んでいた新しい不斉有機触媒の開発には至っていないが、コア分子である光学活性な1,2,6-三置換ピペリジン誘導体の効率的な合成ルートを確立することができた。市販の2,6-ジブロモピリジンを出発原料として、熊田-玉尾カップリングにより2および6位に水酸基を保護したo-ヒドロキシフェニル基を導入した。次いで、金属ナトリウムを用いてピリジン環の還元を行い、得られたピペリジン誘導体のトランス体とシス体をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで容易に分離することができた。トランス体については、ジベンゾイル酒石酸を用いることにより効率的に光学分割することができた。最後のピペリジン窒素原子へのピリジルメチル基の導入は、アミド化を経る還元的アミノ化により達成した。しかし、保護基の付け替えを必要とするなど、なお改善の余地が残されている。合成した2および6位にフェノール、1位にピリジルメチル基をもつピペリジン誘導体をキラルなN2O2型配位子として、各種金属錯体を用いる触媒的不斉酸化反応を検討した。その結果、配位子のフェノール性水酸基のオルト位にかさ高い置換基を導入すると、マンガン錯体を用いるオレフィンの不斉エポキシ化が進行することを見出した。触媒活性および不斉誘起ともに未だ不十分であるが、今後は配位子の改良および中心金属の選択を集中的に行い、マンガンやその他の遷移金属錯体を触媒とする高効率的な不斉酸化反応の開発を目指す。 一方、2および6位に異なる配位性置換基をもつ光学活性な2,6-シス体についても、2,6-ジブロモピリジンへの段階的クロスカップリングを利用して合成する目処が立った。今後は光学分割法の確立を急ぎ、1,2-シス-1,2,6-三置換ピペリジン四座配位子の新規合成ルートを完成させる。得られたシス体をキラル配位子として、トランス体と同様に遷移金属錯体を用いる各種触媒的不斉酸化反応の開発を目指す。
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