本研究はイリジウムの触媒機能を系統的に精査することによって新規な触媒機能を開拓し、精密分子変換反応の実現を目指した。後周期遷移金属錯体のルイス酸としての触媒機能開発は前周期遷移金属に比べて著しく立ち遅れていた。向山アルドール反応では、ルイス酸を用いるため共存できる官能基は限られていた。本研究では、カルボニル基、ニトロ基、シアノ基などの様々な官能基やヘテロ原子共存下で効果的に作用する新規ルイス酸触媒を見出し、それらを触媒として用いるアルドール反応とマンニッヒ反応を開発した。カチオン性のイリジウム錯体である[Ir(cod)2]SbF_6が、アルデヒドとシリルエノールエーテルとの交差アルドール反応の触媒として有効であった。ベンズアルデヒドとアセトフェノンのシリルエノールエーテルの反応は室温で進行し、対応するアルドール生成物が定量的に得られた。芳香環上にニトロ基、シアノ基、エステル基、ジメチルアミノ基などのルイス塩基部位を有する基質からも高収率で生成物が得られた。脂肪族アルデヒドを用いた場合も良好に反応は進行した。同じカチオン性イリジウム錯体とトリフェニルポスファイトを触媒として、アルドイミンとケデンシリルアセタールとを反応させると、Mannich反応が室温で進行し対応するβ-アミノエステルが高収率で得られた。芳香族アルドイミンだけでなく脂肪族アルドイミンも良好に反応した。窒素上にホスホノ基、ホスフィニル基、トシル基を有するアルドイミンからも高収率で生成物が得られた。
|