本研究はイリジウム錯体の触媒機能を系統的に精査することによって新規な触媒機能を開拓し、精密分子変換の実現を目指した。アルキンとニトリルの交差付加環化反応の触媒としては、コバルト、ルテニウム、ロジウムが報告されている。脂肪族ニトリルを用いる場合、これらの触媒では触媒活性が低い範め、大過剰の脂肪族ニトリルを用いなければならなかった。また、ルテニウムについては、α位やβ位にヘテロ原子を持つ脂肪族ニトリルにのみ適用可能であり、基質適用範囲が狭かった。本研究で開発したイリジウム触媒では、アセトニトリルやアルキルニトリルなどを用いてもジインに対して5~10倍量で良好に反応し、高収率で生成物が得られる。脂肪族ニトリルを用いる場合これまでの報告と比べて最も少ない量で反応した。アルキルニトリルとしては、第一級アルキルニトリル、第二級アルキルニトリルともに良好に反応したが、第三級アルキルニトリルは反応しなかった。また、アセタール基やアミノ基を有する脂肪族ニトリルを用いても高収率で生成物が得られる。アミノニトリルに適用できたのは初めての例である。芳香族ニトリルはジインに対して3倍量で良好に反応し、高収率で生成物を与えた。芳香環上にニトロ基、ホルミル基などの官能基を有する芳香族ニトリルも良好に反応した。ジシアノベンゼンに対して4倍のジインを反応させると、両方のシアノ基で付加環化が進行し、ピリジン環-ベンゼン環-ピリジン環を持つオリゴヘテロアレーンが得られた。シアノピリジンも良好に反応した。生成物として非対称ビピリジンが得られた。α-シアノピリジンとの反応で得られる生成物は新規な二座配位子として期待できる。
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