研究概要 |
今世紀に入り10年が経過する。環境エネルギーおよび高齢化問題はいっそう深刻になり、早急に解決への糸口を見いださなければならない。特に有機合成化学分野においては、機能性化合物を与える新規反応が求められる。本課題は、日本人が開発した数々の遷移金属を用いる炭素-炭素結合形成反応の中でも特に有用な溝呂木・ヘック反応に注目し、その位置選択性の制御を目的としている。我々は、BINAPのジヨード体から溝呂木・ヘック反応を用いて合成したBINAPポリマーがリサイクル可能な実用的な不斉配位子となることを最近見出し報告している。このように溝呂木・ヘック反応は、極めて有力な有機合成反応であるが、β位選択的に進行し対応する種々の機能性オレフィンを与える。この反応がα位選択的に進行すれば、種々の機能性化合物合成に大きく寄与する。特に抗炎症剤として広く用いられているナプロキセンなどのプロピオン酸系製剤の不斉水素化反応前駆体としてもよく知られている。本年度、このα位選択的溝呂木・ヘック反応を立体的に制御できることが期待できる配位子の合成を行った。まず、(R)-MeO-MOPオキシドを合成しビナフチル基の3位選択的リチオ化を行い、N,N'-ジヨード-5,5'-ジメチルヒダントイン(DIH)をヨウ素源として、3位のヨウ素化を高収率で達成した。続くウルマンカップリングにより、(R)-MeO-MOPオキシドが3位で結合した2量体に誘導しさらに、還元により2個のジフェニルホスフィニル基をホスフィンに還元した。また、ヨウ化メチルを添加し、一方のジフェニルホスフィノ基をメチルホスホニウム基に変換した後、水酸化ナトリウム水溶液中、ビナフチル炭素原子とホスホニウムリン原子の選択的開裂に成功した。
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