パラジウム触媒を用いるクロスカップリング反応は、22年度のノーベル化学賞に輝いた。そのうち、鈴木-宮浦反応はsp^2炭素-ハロゲン結合を持つアリールハライド、アルケニルハライドとsp^2炭素-ホウ素化合物との間で起こるクロスカップリング反応である。また、根岸カップリング反応は、sp^2炭素-ホウ素化合物に代えてsp^2炭素-亜鉛化合物を用いる優れたクロスカップリング反応である。 一方、本課題の溝呂木・ヘック反応は、オレフィンすなわちsp^2炭素-水素化合物に直接、炭素-炭素結合形成を実現する注目する反応であり、反応機構からもβ水素脱離を伴い、炭素-炭素二重結合を再生する上記2反応とは異なる。このことから、鈴木、根岸クロスカップリングとは異なった化合物合成に適用でき、医薬品合成をはじめ電子材料などの機能性有機化合物合成にとって大変有用である。しかし、基質により異なるが、一般に溝呂木・ヘック反応は、β位選択的に進行する。特にアクリル酸エステルやメタクリル酸エステルでは、β位選択的反応のみが起こる。この反応をα位選択的に進行させることは、種々の機能性化合物合成に大きく寄与できる。特に抗炎症剤として広く用いられているナプロキセンなどのプロピオン酸系製剤の不斉水素化反応前駆体としてもよく知られている。 本年度、立体的に制御された空間をもち、α位に溝呂木・ヘック反応が起こることが期待できる配位子として、(R)-MeO-MOPのビナフチル基の3位にトリル基を導入した新規3-トリル--MeO-MOPの合成を達成した。得られた、3-トリル--MeO-MOP配位子を用いて、アクリル酸エチルとブロモトルエンとの溝呂木・ヘック反応を行ったところ、まだ、少量ではあるが、アクリル酸エチルのオレフィン末端にトリル基が導入されたα位トリル生成物を得た。
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