研究代表者は先に、2当量のサリチルアルドイミン配位子とトリエチルアルミニウムから容易に調製されるアルミニウム錯体1が、錯体1に対して1当量のベンジルアルコール存在下、ε-カプロラクトンに対して1%で極めて優れた重合触媒となることを報告した。NMRにより触媒の二次元構造は推定されていたものの、詳細は不明であった。今回、錯体のX線結晶構造解析により、ふたつの配位子のうち一方は二座配位子であるのに対し、もう一方の配位子は単座配位子であることが確認され、アルミニウムがテトラヘドラル構造であることを明らかにした。 重合機構の研究では、錯体1に対して1当量のベンジルアルコールを加えると、1当量のプロトン化された配位子が新たに生成し、また0.5当量の錯体1が残存していることが確認された。構造確認はできないものの、化学量論比から0.5当量のエチルアルミニウムジベンジルオキシド錯体が生成していると予想された。しかし、アルキルアルミニウムジアルコキシドは、これまで構造が明らかにされていない。このため、エチルアルミニウムジベンジルオキシドが不均化し、他の化合物、すなわち、ジエチルアルミニウムベンジルオキシドとアルミニウムトリベンジルオキシドの混合物が活性種となっている可能性もある。そこで重合系で生成している化合物、錯体1、配位子のプロトン化体、エチルアルミニウムジベンジルオキシド、その不均化体の可能性のあるジエチルアルミニウムベンジルオキシドとアルミニウムトリベンジルオキシドをそれぞれ、また各種組合せによりε-カプロラクトンを重合し、重合挙動を調べ、重合反応におけるそれぞれの化合物の役割を調べた。その結果、錯体1がルイス酸として、またエチルアルミニウムジベンジルオキシドが求核剤として機能し、二種類の錯体の共同作用により複合化触媒として効率的に重合が進行していることが証明された。
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