トリエチルアルミニウムに対して2当量のサリチルアルドイミンを反応させて調製されるアルミニウム錯体と、チタンテトライソプロポキシドとサレン配位子から合成される構造明確なチタン錯体との二つの錯体を組み合わせると、カプロラクトンの開環重合が室温、1時間でほぼ定量的に進行した。それぞれの錯体単独では、重合反応は全く進行しなかった。アルミニウム錯体とチタン錯体を混合してNMR測定したところ、それぞれ単独の錯体を測定したピークと同じ化学シフトにピークが確認され、用いたアルミニウム錯体とチタン錯体は反応することなく共存することが確認された。それぞれの錯体単独では重合触媒能を有していないものの、2種類の錯体の共同作用により重合が進行する複合化触媒であることが証明された。 チタン錯体のサレン配位子のバックボーンがエチレンの場合に対し、オルトフェニレンを用いると、結合している窒素がフェニレンと共役するために、窒素の電子供与性が低下する。すなわち、チタン金属への電子供与性が低下するため、チタンと結合しているアルコキシドの求核性が低下すると考えられる。この電子滴効果について検証するため、重合反応速度を比較すると、エチレンバックボーンに比べてフェニレンバックボーンのチタン錯体を用いた重合反応性は低く、重合反応が完結するのに長い重合時間を要した。この結果から、求核剤の電子的配位子効果により重合反応速度を操作できることが分かった。
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