エネルギー源として水素の重要性が増している。水の電気分解は水素製造の一つの手段である。電気エネルギーを必要とするが、夜間の余剰電力を用いれば経済的にペイする。電気分解のための電極としてPtが最も活性であるが、より安価な代替電極触媒が求められる。HgやAgなどの不活性は電極でも、溶液中にある種の有機化合物を加えると水素発生の過電圧が低下することが古くから知られているが、その理由は不明である。そこで、水素が発生している電極表面を表面増強赤外分光(SEIRAS)で直接観測することにより、分子が触媒する水素発生機構を分子レベルで理解することを目的とした。 これまでの検討で、AgならびにCu電極表面に吸着した含窒素化合物が効率よく水素を発生させること、それらの1電子還元体が水からプロトンを引き抜いて水素化されること(第一級あるいは第二級アミンの生成)、さらにもう一段の還元によって水素が発生することが明らかとなった。ただし、2段目の電子移動によって生成する分子は時間分解SEIRASでも検出できなかったことから、不安定で、速やかに水素分子を放出して最初の状態に戻ると推定された。分子は再度電気化学的に還元されるので、水素発生は繰り返し触媒的に進行する。 反応の核心となる2電子還元体は実験的に観測不可能であるので、DFT計算による検討を行った。その結果、ピリジン類の場合は-NH2基から、チオ尿素などの場合は2つの隣接する-NH3基から水素分子が生成することが推定された。 反応を良く理解するために、分子やイオンの水和構造ならびに水和殻と電極表面との相互作用など、関連する課題についても検討を行った。
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