光誘起電荷分離にお2るスピン化学を利用した有機スピントロニクスの創製を目指すために、イオン液体での亜鉛ポルフィリン(ZnP)-ビオローゲン(V)連結化合物の光誘起電子移動反応と光電気化学反応に対する磁場効果を検討した。イオン液体として1-n-butyl-3-methylimidazoliuni tetra-fluoroborate ([BMIM] [BF_4])を用いた。吸収スペクトルより、イオン液体中では基底状態でのZnPとVの間に電子的相互作用はないことがわかった。イオン液体中の電気化学測定より、ZnPの励起1重項(3^ZnP^*)および励起3重項(3^ZnP^*)からVへの電子移動反応が熱力学的に可能であることがわかった。^1ZnP^*からの電子移動反応に及ぼすメチレン鎖長依存性は測定温度範囲(283-343K)でメチレン鎖長が長くなるにつれて抑制された。一方、3^ZnP^*からVへ電子移動反応で生成する3重項ビラジカルの再結合速度は、温度領域でメチレン鎖長依存性が異なった。低温領域(283-293K)では、上記の^1ZnP^*からの反応の場合と同様に、メチレン鎖長が長くなるにつれて抑制された。しかし、再結合速度は303Kではメチレン鎖長に関係なく同じ値を示し、さらに高温領域(283-313K)では逆にメチレン鎖長が長くなるにつれて促進された。この様に、イオン液体は温度によって電子移動反応のメチレン鎖長依存性を変化できる興味深い反応場を提供できることがわかった。さらに、磁場効果においても特徴的な温度依存性を示すこともわかった。次に、イオン液体中でのZnP-V連結化合物の光電気化学反応に対する磁場効果を検討した。磁場を印加すると光電流が増加する磁場効果が観測できた。イオン液体を用いることで最大で約90%も光電流を増加できる大きな磁場効果を観測できた。これらの結果はスピン化学を利用したイオン液体のミクロ物性の解明と、有機スピントロニクスへの応用につながると考えられる。
|