水熱合成法を用いて、不安定な原子価の遷移金属を含む酸化物の物質探索を行った結果、CaとIrをほぼ等量含む物質が得られた。粉末X線構造解析により、この物質ほパイロクロア構造を持つCa_2Ir_2O_7であることが判明した。この組成からIrの原子価を見積もると5価となるので、目的どおり不安定な酸化数を持つ遷移金属酸化物の合成に成功できたといえる。この物質は1974年に合成の報告があるが、物性に関しては研究の報告がない。微量の試料を用いた予備的実験でこの物質の磁性を測定したところ、パウリ常磁性とスピングラス的な磁性の共存か確認された。このことから、この物質の電子状態は他の多くのイリジウム酸化物と同様に基本は金属的であると考えられるが、一部の電子が局在してスピングラス的な磁性を生み出していると考えられる。このような挙動は今まで知られている他のイリジウム酸化物や、我々が最近発見したルテニウムパイロクロアCa_2Ru_2O_7とも共通するものがあり、幾何学的フラストレーション構造を持つ強相関電子系に現れる普遍的な現象である可能性もある。今回は得られた試料の量が少なく、不純物相の共存も完全には排除できないため、今後さらに合成を繰り返し、組成や構造の詳細および物性を明らかにしていきたい。その他、不安定原子価とはいえないが、水熱合成法による物質探索の過程でフラストレーション系として興味が持たれるCu_3SO_4(OH)_4やCr-Jarositeの良質な単結晶を得ることができ、磁性の詳細を明らかにした。さらに、新規のNi硫酸化物や銅炭酸化物も得ることができ、現在構造や組成の分析を行っている。
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