研究概要 |
引き続き水熱合成法を用いた物質探索を行った。その結果、新しい二次元三角格子磁性体Na_2BaMnV_2O_8,Na_2BaCoV_2O_8,Na_2BaNiV_2O_8を発見した。これらの物質では、MO_6(M=Mn,Co,Ni)八面体がVO_4四面体と酸素を頂点共有する事により層状構造を形成する。層内ではMは三角格子を形成するため、反強磁性的な交換相互作用が存在すればフラストレーション系として興味ある研究対象となりうる。 SQUIDによるNa_2BaMnV_2O_8の磁化測定の結果、この物質では隣接スピン間に反強磁性相互作用が働いている事がわかった。ワイス温度は9K程度と見積もられたが、磁化率はこの温度でも反強磁性転移を示さずに温度の低下とともに上昇し、2,4Kにぼやけた極大を持つ。東北大学金属材料研究所におけるパルス磁場による磁化測定の結果、1-6Kでは磁化曲線は滑らかな曲線を描き、磁気ヒステリシスを持つ事がわかった。これはこの温度でなお常磁性状態である事を意味する。一方、0.6Kでの磁化曲線は磁気ヒステリシスを示さず、6T程度で明確な折れ曲がりを見せた後に飽和する。この事から、この物質は0,6Kでは磁気秩序を持つと考えられる。さらに、0.6Kでは三角格子面に平行に磁場をかけた場合に、磁場誘起相転移を示唆するピークが微分磁化に現れる。以上のように、この物質は新しいフラストレート系として興味ある研究対象である事がわかった。 さらに、遷移金属ジグザグ鎖を含むFe_2(OH)[B_2O_4(OH)]およびCo_2(OH)[B_2O_4(OH)]の合成に成功した。後者は本研究で初めて発見された新物質である。SQUIDによる磁化測定の結果、これらの物質は低温で弱強磁性を発生する事が明らかになった。但し、自発磁化の温度依存性がフェリ磁性体の特徴を示す事、磁化曲線に二段のステップが現れる事など、その磁性には興味深い挙動が見られる。これらの挙動は二種類のジグザグ鎖がそれぞれキャンティングにより異なる弱強磁性磁化を持ち、それらがフェリ磁性的に結合しているという興味深いモデルで定性的に説明ができる。
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