本研究では、持続的安定供給可能な未利用炭素資源としてバイオマス由来の糖類や糖アルコール類に注目し、それらの有用物質への新規化学変換法を開発することを目的とした。具体的には、様々なカルボニル化合物を直接的に合成できるカルボニル化反応において、これらの炭素資源を一酸化炭素の代替試薬として利用する技術の開発を目指した。 1.糖類と同様に自然界に広く分布する糖アルコールに注目し、代表的な糖アルコールであるグリセロールやマンニトールから容易に誘導できるグリセルアルデヒドを合成し、カルボニル化合物合成における炭素源としての利用を検討した。ロジウム錯体触媒の存在下で、グリセルアルデヒド誘導体を、炭素-炭素三重結合と二重結合を併せ持つエンイン類と反応させると、双環性ケトンが得られることを見い出した。グリセルアルデヒドのみの触媒反応の結果より、これが上記反応においてカルボニル単位を供給していることが明らかとなった。 2.糖類やその源であるセルロースから大量に製造されている2-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)が同様にホルミル基を有することに着目し、これをカルボニル供給源としての利用を検討した。項目1と同様の反応においてHMFを用いると、そのカルボニル単位が触媒により引き抜かれ高効率に生成物へ導入されることを見い出した。 以上の成果は、バイオマス由来の糖類や糖アルコール類の合成化学的な新規利用法を提供するものである。また、従来毒性の高い一酸化炭素の利用に依存してきたカルボニル化プロセスを、操作上安全かつ簡便に実施できる新手法を提供する。
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