昨年度、定温ガスガスクロマトグラフィーにより五塩素化ビフェニル(PeCB:全46種の異性体)の保持容量を悉皆的に測定し、van't Hoffプロットに基づいてキャピラリーカラム固定液層に対する吸・脱着エンタルピー(△H)、同エントロピー(△S)変化量を算出することに成功した。今年度は、△Hと△Sの間に明確な補償関係(EEC)が成立するかどうかを確認するため、R.R.Krugの提案に基づくEECの統計的評価法に従い、本系におけるその成立について詳細に検討した。具体的には、(1)各異性体のvan't Hoffプロットが一点に収束する(この時の温度が補償温度Tc:θ則)かどうかを調査した結果、今回の測定温度範囲では明確な一点収束は観られなかった。(2)△G_<Thm>(測定温度の調和平均T_<hm>における保持容量の自然体数値)と△Hとのプロットより両物理量に線形関係が成立するかどうか確認した結果、極めて高い線形関係(r^2=0.972)が成立することがわかった。また、(3)(2)のプロットに基づいて補償温度(Tc=992.1K)を算出し、△H vs.△Sプロットより得られる補償温度(Tc'=933.5K)と比較した結果、ほぼ一致することが分った。(4)分散分析(Tukey法)に基づいて(1)のプロットが測定温度域以外で一点収束する統計的可能性を調査した結果、その可能性は極めて高い(MS_<con>/MS_<noncon>=1512>>7.264)が、測定誤差も無視できない(MS_<noncon>/MS_e=762.5>>1.647)ことが分った。以上の結果、本系ではEECは成立しているとみなせるが、補償温度は統計誤差のため確定出来なかった。加えて、ortho位の塩素置換数やpromixitive位の塩素置換基対数等の塩素置換位置種類に基づいてPeCBをクラス分けし、各クラスにおいて再度分散分析を行なった。この結果、(1)のプロットが一点収束することはortho位の塩素数が重要な役割を果たしており、EECは、芳香環の温度変化に伴う分子内回転運動と密接に関係していることが示唆された。
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