生体高分子にProtein Transduction domain(PTD)呼ばれる塩基性ペプチドを付加して細胞外から細胞内へと移送する技術は、現在タンパク質や遺伝子の細胞内導入技術として細胞シグナル伝達研究、がん免疫療法、遺伝子治療などに応用されている。しかしPTD導入タンパク質を細胞内に移送する場合、エンドソームから細胞質への移行効率が低い、あるい導入したPTDによる立体構造形成や機能発現の阻害などの問題がある。本研究ではこれらの技術的問題を解決するために、PTD導入において申請者らが考案した「高圧モジュレーション」を用いることで、細胞内移送を効率化する技術を開発する。この方法はPTD導入ポリマーとタンパク質を高圧下でインキュベートして可逆的に結合させるものであり、工程の簡素化とタンパク質の細胞内移送効率の向上を同時に実現することができる。 本研究では卵白の主成分タンパク質であるオボアルブミン(OVA)をモデル蛋白質として用いる。OVAは卵アレルギーの抗原蛋白質であり、免疫系のモデル抗原として用いられている。さらに、熱変性にともないアミロイド線維の類似した機構でナノサイズの繊維状凝集体を形成すことも知られている。OVAのアミノ酸配列を凝集予測アルゴリズムで解析したところcentralβsheetを中心に凝集傾向が高い領域が見出された。そこでこれら領域近傍のペプチドにPTD配列を付加したところ、strand 3Aに塩基性を付加したペプチドが有意にOVAの凝集を促進することがわかり、OVAのアミロイド状線維形成の核として働くことを示唆された。今後はこのペプチド共存下で形成したOVAの凝集構造を調査する。
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