研究課題
生体高分子にProtein Transduction domain (PTD)呼ばれる塩基性ペプチドを付加して細胞外から細胞内へと移送する技術は、タンパク質や遺伝子を用いた細胞内シグナル伝達の研究やがん免疫療法、遺伝子治療などに幅広く応用されている。タンパク質にPTD配列を導入するのは技術な難度が高い上、導入したPTDが機能発現を阻害するという問題がある。本研究ではこれらの問題を解決するために、高圧によってタンパク質の立体構造に摂動を誘導することでタンパク質にPTDを導入する方法を開発する。具体的には免疫研究において抗原モデルとして用いられている卵白タンパク質オボアルブミン(OVA)の抗原提示細胞内への取り込みをモデル系として用いた。50-400MPaの圧力下でOVAの分子間凝集を誘導することでPTDを取り込んだ複合体を形成させ、その細胞内移送性を調査した。OVAは熱凝集にともない線維状凝集体を形成することが知られているが、HIVウィルス由来のPTDペプチドであるTATペプチド共存下でOVAを80℃で熱処理すると、200nm程度の微粒子を形成することを明らかにした。微粒子形成は塩濃度に強く依存し、緩衝液濃度が1mM以上の場合には、不規則な凝集体を形成した。蛍光標識TATペプチドを用いて微粒子形成の機構を調査すると、OVA1分子あたり2分子のTATペプチドが取り込まれていることが判明した。一方、微粒子のゼータ電位は-25mVであることから、TATペプチドは微粒子内部に取り込まれていることが示唆された。また蛍光標識したOVA-TAT微粒子のマクロファージRAW264に対する取り込み能をフローサイトメトリーによって解析すると、細胞内移行性は微粒子形成にともない10倍程度向上することが判った。さらにOVAは400MPa以上の圧力によって立体構造の変化を起こし、TATペプチド共存下でナノ微粒子を形成することが判った。今後は高圧によって誘導されるOVA-TAT微粒子形成の機構を明らかにするとともに、その細胞移行性を調査する。
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The Journal of Biological Chemistry
巻: 286 ページ: 5884-5894
10.1074/jbc.M110.176396