細菌のなかには、生命活動において重要な役割を果たす鉄イオンをヘムから獲得するシステム(Heme acquisition system)を持つものがある。こうしたヘム獲得プロセスは、細胞外に分泌されたheme acquisition system A(HasA)が宿主のhemeoglobin(Hb)などからヘムを奪い取り、受容体である膜タンパクHasRへと渡すことから始まることが知られている。 これまでの研究で、緑膿菌由来のHasA(PaHasA)はHis-32とTyr-75をヘム鉄に対する配位子として巧みに利用しながら、ヘムの授受を行っていることがわかっていた。が、今回、エルシニア由来HasA(YpHasA)ではPaHasAのHis-32に対応するアミノ酸残基がGlnであるにもかかわらず、PaHasAに匹敵する速度でYpHasAは遊離のヘムを獲得できること、Hbのヘムを引き抜くことができることなどを確認した。また、ヘムと結合したHolo型YpHasAの吸収、共鳴ラマン、EPRスペクトルを同じくHolo型PaHasAのものと比較したところ、前者は5配位high spinの特徴を示すのに対し、後者は6配位low spinの特徴を示した。さらに、Q32A YpHasA変異体もヘムと結合する能力を持ち、Holo型では5配位high spinであった。こうした観察結果は、ヘムタンパクからのヘムの引き抜きにおいては、neutralなHisあるいはGln残基よりも、anionicなTyr残基が重要であることを示唆していると考えられる。
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