重原子、セレン、反応性官能基、蛍光基、クロスリンカー等、有用な官能基を有する非天然型アミノ酸を部位特異的に導入する方法はタンパク質の構造と機能を知る上で重要な技術となりつつある。ピロリジル-tRNA合成酵素(PylRS)/tRNA^<Pyl>ペアは大腸菌、酵母、培養細胞で宿主由来のaaRS、tRNAと交差反応しない理想的な非天然型アミノ酸導入システムである。我々は2004年にPylRS触媒ドメインの結晶構造を解明すると共に、PylRSはアミノ酸基質特異性が低く、ピロリジンだけでなく様々な疎水性官能基をもつリジン誘導体を活性化できる特異なaaRSであることを発見した。我々はこのシステムを用いて様々なリジン誘導体をタンパク質に導入し、タンパク質の蛍光ラベル、ビオチンラベル、PEG化修飾や翻訳後修飾に関する研究に利用している。構造ベース変異およびスクリーニングによって得られたPylRS変異体を用いてアジド基を含むZ-Lys誘導体、N^ε-(o-azidobenzyloxycarbonyl)-L-lysineをin vivoでタンパク質へ導入し、アジド基と蛍光ボスフィン、蛍光アルキンとの反応でタンパク質の効率的な蛍光ラベル化に成功した。また、我々のグループは8年ほど前からクロスリンカー含有チロシン誘導体をタンパク質に導入したのちUVクロスリンク(架橋化)を行い細胞内で相互作用するタンパク質を検出する方法を開発しているが、その一環としてクロスリンカー含有リジン誘導体N^ε-(p-trifluoreomethylbenzyloxycarbonyl)-L-lysine(TmdZ-Lys)を合成し、タンパク質への部位特異的導入を試みている。
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