重原子、セレン、反応性官能基、蛍光基、クロスリンカー等、有用な官能基を有する非天然型アミノ酸を部位特異的に導入する方法はタンパク質の構造と機能を知る上で重要な技術となってきている。ピロリジル-tRNA合成酵素(PylRS)/tRNA^<Pyl>ペアは大腸菌、酵母、培養細胞において宿主由来のaaRS、tRNAと交差反応しない理想的な非天然型アミノ酸導入システムである。我々はPylRS触媒ドメインの結晶構造を解明すると共に、PylRSはアミノ酸基質特異性が低く、ピロリジンだけでなく様々な疎水性官能基をもつリジン誘導体を活性化できる特異なaaRSであることを発見した。この系を用いて様々なリジン誘導体をタンパク質に導入し、タンパク質の蛍光、ビオチンラベルや翻訳後修飾に関する研究に応用している。我々のグループでは以前からクロスリンカー含有チロシン誘導体を利用したクロスリンク(架橋化)法により細胞内で相互作用するタンパク質を検出するための方法論を開発しており、研究代表者が中心となってクロスリンカー含有リジン誘導体、N^ε-(trifluoreomethylpropyloxycarbonyl)-L-lysine(TmdLys)、およびN^ε-(trifluoreomethylbenzyloxycarbonyl)-L-lysine(pTmdZLys)をタンパク質へ導入することを試みている。TmdLysは大腸菌および哺乳類細胞でタンパク質に導入でき、一方pTmdZLysは大腸菌、無細胞質タンパク質合成系、哺乳類細胞において導入できることを明らかにした。更にpTmdZLysが導入されたタンパク質を用いて細胞内で相互作用するタンパク質を特異的にクロスリンクすることにも成功している。また、当グループで最近開発された大腸菌翻訳終結因子RF1欠損株を利用して有用性官能基含有リジン誘導体を数カ所以上タンパク質に導入する実験についても進行中である。
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