本研究は抗敗血症性の高活性抗菌剤の開発を、細菌表層複合糖の物理化学的なマクロ解析、及び、単一分子計測技術を応用して、生きた細胞の表層その場で評価することにより推進する。細菌外膜リポ多糖及びリピドAに、マガイニン2やNK-リシンの活性ペプチド部分と、そのアミノ酸の部分置換ペプチド等を作用させたときの、膜物性や生物活性の変化に基づいて、高活性化の指針を得る。 平成21年度は、マガイニン2のグリシンなど一部のアミノ酸を、疎水性アミノ酸のバリンなどに置換したペプチドや、NK-リシンの部分ペプチドのアミノ酸修飾ペプチドをリポ多糖やリピドAに作用させたときの機能変化を、相転移挙動や膜表面の電気状態を各種分光スペクトルの測定や熱分析などにより調べた。また、ナノサイズの金属微粒子を用いた表面増強ラマン分光法(SERS)、局在表面プラズモン共鳴法(LSPR)などによるレーリー散乱分光に最適な、金属微粒子凝集体のスペクトル測定用顕微分光システムを構築すると共に、金属微粒子凝集体のサイズや形状の制御により、増強光電場の持続時間の改善を図った。 その結果、アミノ酸の一部をバリンで置換したペプチドをリピドA膜に作用させた場合には、分子配列状態の再構成が誘起され、抗菌ペプチド類のリン脂質膜でのポア形成とは異なる作用機構の存在が推察された。また、NK-リシンの構成アミノ酸の一部を除去したペプチドでは細菌外膜への結合性低下により、生物活性の発現が抑制された。これらにより、細菌外膜との相互作用がペプチド類の機能評価に重要と示唆された。また、金属微粒子を用いた高感度測定の基礎データ蓄積が進んでいる。
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