本年度は、ポリアクリル酸(PAA)を被覆した天然黒鉛負極における被膜生成メカニズムの基礎的知見を得るため、昨年度に引き続き、炭酸エチレン(EC)を主溶媒とした電解液を用いて、PAAの重量平均分子量(Mw)が固体電解質界面(SEI)被膜の生成メカニズムに及ぼす影響と、電極/電解液での界面挙動を中心にPAA被覆天然黒鉛負極の電極反応機構を解析した。 初回充電時の微分容量曲線を用いて、初回充電反応を解析した。初回充電時、Mwの大きいPAAを用いた電極では、特に低電位領域で電解液の還元分解反応を効果的に抑制されていたので、PAAのMwが初回充電反応に影響を及ぼすことが分かった。0.2V vs.Li/Li+における交流インピーダンス測定の結果より、Mwの大きいPAAを用いた電極では、被膜抵抗が小さかった。この電位では、被膜形成はほぼ終了していると考えられるので、Mwにより被膜の抵抗成分に差異が生じたことが示唆された。さらに、この電位における電荷移動抵抗が温度依存性を有することから、アレニウスプロットを用い、脱溶媒和反応における活性化エネルギー(Ea)を求めた。その結果、PAAのMwの増加に伴い、脱溶媒和反応におけるEaが減少する傾向を示し、PAAのMwが脱溶媒和反応に影響を及すことが示唆された。さらに、初回充電時0.2V vs.Li/Li+における天然黒鉛電極のX線光電子分光の結果、Mwの差異に関わらず、SEI被膜の無機成分であるLi2CO3のC-0に由来すると考えられるピーク、有機成分であるアルキルカーボネートに含まれる炭化水素のC-HおよびC-0に由来すると考えられるピークが検出された。しかし、Mwの差異によりSEI被膜に含まれる有機成分と無機成分に由来すると考えられる各々のピーク面積比に差異を生じていた。 以上の結果、PAAのMwがSEI被膜生成メカニズム、特にSEI被膜の生成量や成分比に影響を及ぼすこと、また、電極/電解液での界面挙動としてMwの増加に伴い、被膜抵抗および脱溶媒和反応におけるEaの減少にも影響を及ぼすことを明らかにした。
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