研究概要 |
光増感色素のモデル化合物として1-ナフトールを用いたTiO_2スラリー系では、550nm以下の波長領域に新しい光吸収帯が現れた。この吸収帯は、吸着ナフトールと表面Ti^<4+>との強い相互作用で生成した電荷移動錯体によるもので、ESRスペクトルは照射光波長および光強度に依存して変化した(77K)。結果を以下にまとめる。 1.可視光(400nm-500nm)を照射すると、ナフトキシルラジカル(Naph^. ; g=2.000, a^H=12G(1H), 6.6G(1H))と表面Ti^<3+>(g_∥=1.958, g_⊥=1.990)が生成した。Naph^.は捕捉ホールに、表面Ti^<3+>は捕捉電子に帰属できた。 2.可視光(400nm-500nm)と赤外光(>600nm)の同時照射を行うと、可視光単独照射の場合に比べてNaph^.と表面Ti^<3+>の生成量が増加した。また、可視光照射後の両化学種が生成している系に、赤外光を照射すると、Naph^.と表面Ti^<3+>が共に増加した。この光応答は、可視光照射によりナフトールはNaph^.となるが、同時に一部はTi^<4+>と弱く相互作用する準安定種に転移すると仮定すれば説明可能である。すなわち、この準安定種が、赤外光により、Naph^.と表面Ti^<3+>に転換すると考えられる。 以上の観測結果は、さらに詳細な検討を行う必要はあるが、本来近赤外領域に吸収を示さない増感剤を使って、近赤外領域の光を光電変換に利用できる可能性を示唆するものであり、極めて興味深い。 また、TEMPOを色素骨格に導入した常磁性色素を新規に合成し、色素吸着溶液の濃度やコール酸添加効果の色素分子間距離および色素増感太陽電池の光電変換特性に及ぼす影響を調べた。その結果、コール酸共吸着系では色素の凝集は分子レベルで完全に抑えられ、色素分子間距離が1.15nm以下では、分子間エネルギー移動による電荷再結合が優先的に起こり、電子注入効率が低下することを明らかにした。
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