研究概要 |
赤松の薪を燃料として、登り窯で焼成した備前焼表面は茶褐色となる。この色は、電気炉で焼成した場合には現れないことから、薪の成分と備前焼粘土が反応することにより形成すると考えられる。作家(研究協力者)により提供された登り窯で焼成した備前焼について、茶褐色模様の構成相を検討した結果、主結晶相は化学式がMg(Al,Fe)_2O_4として表されるスピネル相であることがわかった。この相は、赤松から供給されるMgと備前焼粘土が反応することにより形成することが明らかとなった。また、スピネル粒子について透過聖電子顕微鏡観察を行った結果、粒子は約1μmの八面体で粒子であることがわかった。さらに、スピネル粒子には~0.5μmのマグネタイト(Fe_3O_4)粒子が、スピネル相と同じ結晶方位で生成していることが明らかとなった。これらの結果を基に、備前焼粘土表面にMg化合物を塗布し焼成することにより模様の再現を試みたが、模様の再現には至らなかった。 種々の組成のスピネル(Mg(Al,Fe)_2O_4(x=0-2.00))を合成し、その色調について検討した結果、鉄の置換量の増加に伴い、粒子の色調は茶褐色から黒色となった。これらのスピネル相の原料(MgO、Fe_2O_3およびAl_2O_3)の混合物を、塩化カリウム溶液に分散し、備前焼粘土表面に塗布して1250℃で大気中にて焼成した結果、登り窯で焼成した作品表面と同じ色調の試料作製に成功した。 備前焼表面の色調は、焼成条件により大きく変化する。作品の表面に生成するスピネル相、マグネタイトおよび酸化鉄の生成量の違いにより色調が変化すると考えられる。
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