遷移金属の中で最も大きな相対論効果が期待できる元素である金の錯体を、有機官能基を一つ有することを特徴とするケイ素系高分子であるシルセスキオキサンとハイブリッド化することにより、双方の特徴を兼ね備えた新しい固体りん光材料の創製を目指している。本年度はシルセスキオキサンの有機基と金錯体の配位子との分子間相互作用を利用したハイブリッド化について検討した。シルセスキオキサンにはフェニルトリエトキシシランの加水分解・重縮合反応で得られるポリフェニルシルセスキオキサン(PPSQ)を、金錯体には二つのトリフェニルホスフィン配位子とクロロアニオンが配位した三配位型金(I)錯体を用いた。また、ホスフィン配位子の三つのフェニル基には電子的性質の異なる置換基を導入し、分子間相互作用の形成に及ぼす影響ならびに発光特性に及ぼす影響について検討した。その結果、ホスフィン配位子のフェニル基に電子求引性の置換基を導入した場合は膜中で金錯体が結晶化することによって白濁した薄膜を与え、このホスフィン配位子は分子間相互作用を利用したハイブリッド化には適さないことがわかった。一方、トリフェニルホスフィンやそのフェニル基に電子供与性置換基を導入した場合には無色透明な薄膜が得られたことから、分子間相互作用を介してハイブリッド化しているものと考えられた。いずれのハイブリッド薄膜もAu5d→Au6pの金属中心での遷移に由来する青緑色の発光を示し、また、フェニル基に導入した置換基の電子供与性が強いほど発光量子効率が高くなる傾向を示した。このように、ホスフィン配位子のフェニル基への置換基の導入は、分子間相互作用の形成のみならずハイブリッド薄膜の発光特性にも著しく影響を及ぼすことが明らかとなり、相互作用型ハイブリッドの作成においては分子間相互作用の形成を担う有機基の選択が重要であることがわかった。
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